はじめに
SWOT分析は、経営戦略で最もよく使われる分析手法の一つです。
しかし、実際の経営支援では、
「強み・弱み・機会・脅威を書き出して、きれいな表を作って終わり」
になっているケースも少なくありません。
SWOT分析の本当の目的は、会社を分析することではありません。
「では、明日から何をするのか」を決めることです。
特に中小企業では、限られた人員・資金・時間をどこへ集中させるかを決めるために使います。
1.SWOT分析とは
SWOTでは、会社の状況を4つに分けます。
| 分類 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| S:Strength | 自社の強み | 技術、資格、人材、顧客基盤 |
| W:Weakness | 自社の弱み | 人手不足、営業力不足、属人化 |
| O:Opportunity | 外部の機会 | 市場拡大、法改正、補助金、需要増 |
| T:Threat | 外部の脅威 | 競合、人口減少、物価高、人材不足 |
ここで大切なのは、S・Wは会社の中、O・Tは会社の外という区別です。
例えば「人手不足」。自社だけ採用できていないのであれば**弱み(W)ですが、業界全体で人材が不足しているのであれば脅威(T)**でもあります。
2.SWOTは「クロス」して初めて戦略になる
4項目を書いただけでは、会社の健康診断をしただけです。
次に行うのがクロスSWOT分析です。
外部環境
機会 O 脅威 T
強みS SO戦略 ST戦略
弱みW WO戦略 WT戦略
↑
内部環境
3.最も重要なのは「強み×機会」
まず考えたいのが、
S × O
自社の強みを、これから伸びる市場へぶつける戦略です。
売上向上を目的とするなら、非常に重要です。
具体例① 工務店
強み(S)
- 窓工事が得意
- 職人が自社にいる
- 地域で施工実績が多い
機会(O)
- 省エネ需要
- 断熱への関心
- 補助制度
- 電気代上昇
これを組み合わせると、
「窓工事会社」
ではなく、
「地域の住宅省エネ・断熱改善に強い会社」
という戦略が考えられます。
そして、
- 断熱診断
- 窓改修
- 玄関
- 補助制度の案内
- 工事後の効果確認
まで商品化します。
SWOT分析が、実際の商品戦略へ変わりました。
4.「強み×脅威」で守りながら攻める
S × T
自社の強みを使って、外部の脅威へ対応します。
具体例② 製造業
脅威(T)
海外製品との価格競争。
強み(S)
小ロット・短納期・難加工への対応力。
ここで海外企業と価格競争をする必要はありません。
むしろ、
「大量生産品は追わない。短納期の試作や難加工へ集中する」
という戦略を取ります。
これは前回のVRIO分析ともつながります。
競合と同じ土俵で戦うのではなく、
自社の強みが生きる市場へ戦う場所を変えるのです。
5.「弱み×機会」は投資判断に使う
W × O
市場にはチャンスがあるのに、自社の弱みが邪魔をしている状態です。
具体例③ 地域の飲食店
機会(O)
観光客が増えている。
弱み(W)
- ホームページがない
- Googleマップ情報が古い
- SNSを使っていない
- 外国語メニューがない
料理を変える必要はありません。
まず、
- Googleビジネスプロフィール
- 写真
- メニュー情報
- Web予約
を整備します。
つまり、SWOT分析から、「何に投資すれば売上機会を取り込めるか」が見えてきます。
6.「弱み×脅威」は撤退や縮小も考える
W × T
これは最も注意が必要な領域です。
例えば小売店
弱み(W)
- 店主が高齢
- 後継者がいない
- EC対応できていない
脅威(T)
- 人口減少
- 大型店進出
- ネット通販増加
この場合、「もっと頑張って売る」だけが戦略ではありません。
- 商品を絞る
- 店舗を縮小する
- 他社と提携する
- 事業承継する
- 不採算事業から撤退する
という選択も経営戦略です。
やらないことを決めるのも戦略です。
7.SWOTとVRIOを組み合わせる
ここが中小企業診断士として、ぜひ実践してほしいところです。
前回のVRIOでは、「自社には何があるか」を分析しました。
今回のSWOTでは、「その強みを、どの市場で使うか」を考えます。
VRIO分析
「何で勝てるか」
↓
SWOT分析
「どこで使うか」
↓
商品・サービス
↓
ターゲット
↓
営業・マーケティング
↓
売上・利益
8.具体例④ 介護事業所
例えば、ある介護事業所を分析します。
Strength
- ベテラン職員が多い
- 認知症対応の経験が豊富
- 家族対応の評判が良い
Weakness
- 採用が弱い
- ホームページが古い
Opportunity
- 地域の高齢化
- 在宅介護需要の増加
Threat
- 介護人材不足
- 大手事業者の進出
ここから、
S×O
認知症ケアと家族支援を強く打ち出す。
W×O
ホームページを改修し、実際の支援内容を発信する。
S×T
ベテランのノウハウを教育体系にして、若手育成へ活用する。
という具体策が出てきます。
一枚のSWOT表から、商品戦略・Web戦略・人材戦略までつながりました。
9.機会を探すときは「変化」を見る
Opportunityを考えるとき、「何か良いことはないか」と考えても、なかなか出てきません。
そこで私は、世の中の変化から考えることをおすすめします。
例えば、
- 人口構造
- 法改正
- 補助金
- AI
- DX
- 物価
- 人手不足
- 高齢化
- インバウンド
- 環境・省エネ
- 消費者行動
です。
重要なのは、変化そのものに良い・悪いはないということです。
例えば人手不足は脅威ですが、省力化システムを販売する会社にとっては大きな機会です。
10.SWOT分析でよくある失敗
失敗① 項目を大量に書く
20個、30個書いても実行できません。
重要なものを3~5個程度に絞ります。
失敗② 抽象的すぎる
「技術力が高い」ではなく、
他社が断る○○加工を3日以内に試作できる
まで具体化します。
失敗③ 弱みを全部直そうとする
中小企業には資源が限られています。
弱みを全部平均点にするより、
強みをさらに伸ばした方がよい場合があります。
失敗④ 分析して満足する
最終的に、
誰が・何を・いつまでに行うか
まで決めます。
11.SWOTから「売上向上策」を3つ作る
分析後は、戦略を大量に作らないことをおすすめします。
まず3つに絞ります。
例えば、
売上向上策①
既存の強みを使って、新しい顧客層へ進出する。
売上向上策②
既存顧客へ、新しいサービスを販売する。
売上向上策③
弱かったWeb・営業を改善し、強みを市場へ伝える。
そして、
戦略
↓
具体策
↓
担当者
↓
期限
↓
数値目標
中小企業診断士の視点
SWOT分析をするとき、私は「弱み」以上に機会(O)を重視します。
なぜなら、昨日まで売れなかった商品が、外部環境の変化によって突然必要になることがある
からです。
AI、法改正、人手不足、高齢化、省エネなど、環境変化の中には必ず新しい需要があります。
そこで、「世の中の変化 × 自社の強み」を考えます。
これが、新規事業や売上向上のヒントになります。
ワンストップ君のワンポイント
🐶 「強みを見つけたら、次は“どこで使えば一番売れるか”を考えよう!」
強みを持っているだけでは売上になりません。
市場の変化と結び付けて初めて、経営戦略になります。
すぐできる実践ワーク
まず、それぞれ3つだけ書いてください。
| SWOT | 自社の場合 |
|---|---|
| S 強み | ①___ ②___ ③___ |
| W 弱み | ①___ ②___ ③___ |
| O 機会 | ①___ ②___ ③___ |
| T 脅威 | ①___ ②___ ③___ |
次に、
S × O
「自社の強みを、これから伸びる市場へ使えないか?」
S × T
「強みを使って、脅威を避けられないか?」
W × O
「この弱みを改善すれば、どんな売上機会を取れるか?」
最後に、最も売上・利益への効果が大きいものを一つだけ選びます。
まとめ
SWOT分析は、自社をきれいに整理するための表ではありません。
外部環境の変化を見つける
↓
自社の強みと組み合わせる
↓
勝てる市場を選ぶ
↓
具体策を決める
↓
担当者・期限・数値目標
↓
実行
↓
売上・利益・事業発展
今回のSWOT分析で**「どこで勝つか」**を考えました。
この二つを組み合わせるだけでも、経営戦略はかなり具体的になります。
次回予告 第3回
「競合より安く」は戦略ではない
~ポーターの競争戦略で、自社が戦う場所を決める~
次回は、
コスト・リーダーシップ、差別化、集中戦略
を中小企業向けに分かりやすく取り上げます。
特に、
大企業と同じ市場で戦わない
「誰にでも売る」をやめる
狭い市場で圧倒的に強くなる
という、中小企業に非常に重要な考え方を、工務店・製造業・介護・飲食店などの具体例で説明します。
| 第2回の要点 | 経営への活用 |
|---|---|
| SWOT | 強み・弱み・機会・脅威を整理する |
| クロスSWOT | 分析結果を戦略へ変える |
| S×O | 強みを成長市場へ投入する |
| S×T | 強みを使って脅威を回避する |
| W×O | 弱みを改善して市場機会を取る |
| VRIOとの連携 | 「何で勝つか」から「どこで勝つか」へ |
| 最終目的 | 具体策・担当者・期限・数値目標まで決め、売上・利益につなげる |




