はじめに
競合店が値下げした。売上が落ちてきた。そんなとき、
「うちも少し安くしよう」と考えていないでしょうか。
しかし、人件費や仕入価格が上がる中、中小企業が価格競争を続けるのは危険です。
前回までに、
VRIO分析 → 何で勝つか
SWOT分析 → どこにチャンスがあるか
を考えました。今回はさらに一歩進み、
「誰を相手に、どのような価値で勝つのか」を決めます。
そこで役立つのが、マイケル・ポーターの競争戦略です。
1.競争戦略には3つの基本方向がある
ポーターの考え方を分かりやすくすると、大きく次の3方向があります。
| 戦略 | 考え方 | 例 |
|---|---|---|
| コスト・リーダーシップ | 広い市場で低コストを実現 | 大量仕入・大量販売 |
| 差別化 | 他社にはない価値を提供 | 品質・サービス・ブランド |
| 集中 | 特定の顧客・地域・商品に絞る | ○○専門店 |
ここで中小企業に特に重要なのが、差別化と集中です。
大企業と同じ商品を同じ方法で販売し、価格だけで勝負する必要はありません。
2.なぜ中小企業は価格競争を避けるべきなのか
例えば、1万円の商品を販売して、原価などを除いた利益が2,000円だったとします。
「10%くらいなら」と9,000円に値下げすると、利益は単純計算で1,000円になります。
売価は10%しか下げていないのに、利益は50%減ります。
10,000円
利益 2,000円
↓ 10%値引き
9,000円
利益 1,000円
値引きは簡単ですが、利益への影響は想像以上に大きいのです。
3.「高いから売れない」とは限らない
ここで顧客心理シリーズともつながります。
お客様は、必ずしも一番安い商品を買っているわけではありません。
例えば住宅リフォーム。
A社 80万円
「外壁塗装一式 80万円」
B社 95万円
- 建物診断
- 写真付き説明
- 詳細見積り
- 施工中の進捗報告
- 完成写真
- 5年後点検
どちらを選ぶでしょうか。15万円高くても、「こちらの方が安心できる」とB社を選ぶ顧客はいます。つまり、
価格差以上の価値を見せることが差別化です。
4.差別化とは「変わったこと」をすることではない
差別化というと、「他社がやっていない新商品を作らなければ」と考えがちです。
しかし、それだけではありません。差別化できる要素はたくさんあります。
- 専門性
- 品質
- スピード
- 説明力
- アフターサービス
- 利便性
- 保証
- 人材
- 技術
- 実績
- 顧客体験
例えば、同じエアコン工事でも、「施工します」と、
「現地調査→見積り→施工→使い方説明→清掃→施工後確認」では、顧客が感じる価値が違います。
商品そのものだけでなく、購入前から購入後まで全部が差別化の対象です。
5.さらに強いのが「集中戦略」
中小企業にとって非常に重要なのが、「誰にでも売ろうとしない」ことです。
例えば普通の工務店なら、「新築・リフォーム・修繕、何でも対応します」となります。
これを、高齢者住宅改修専門に絞ります。さらに、
- 手すり
- 段差解消
- 浴室
- 断熱
- 介護保険
- 補助制度
まで対応します。
すると、「親の家を安全にしたい」という顧客にとって非常に分かりやすい会社になります。
6.具体例① 町工場
以前
「金属加工なら何でもやります」
↓
価格比較される。
そこで過去の受注を分析すると、
他社が断った小ロット・短納期の難加工
に強かった。
そこで、
「試作品・小ロット・難加工専門」
へ営業を集中します。
さらに過去の加工データを蓄積します。
すると、
集中
↓
案件が集まる
↓
経験が増える
↓
技術が上がる
↓
さらに難しい案件が集まる
↓
模倣困難性が高まる
集中すること自体が、将来の強みを作るのです。
7.具体例② 飲食店
郊外の飲食店が、「若者も家族も高齢者も来てください」と広告しても、特徴が伝わりません。
そこで顧客データを見ると、小さな子どもを持つ家族のリピート率が高かった。
そこで、
「小さな子ども連れでも安心して食事できる店」
へ集中します。
- 座敷
- 子ども用椅子
- アレルギー表示
- おむつ交換スペース
- キッズメニュー
- Web予約
を整えます。
料理だけではなく、顧客の困りごと全体を解決することで差別化できます。
8.具体例③ 士業・コンサルタント
「中小企業なら何でも相談してください」より、
建設業に強い
医療・介護に強い
事業承継に強い
など、得意分野を明確にした方が顧客には伝わります。
さらに、税務だけではなく、税務+労務+許認可+経営支援
と強みを組み合わせれば、前回までに説明した希少性も高まります。
9.集中すると市場が小さくならないか?
経営者が心配するのが、「絞ったら、お客様が減るのでは?」という問題です。
確かに、対象は狭くなります。しかし、
100万人に
「まあまあ必要」
より
1万人に
「まさに私に必要」
特にWeb検索では、「工務店」より、「介護リフォーム ○○市」「工場 難加工 小ロット」
など、具体的な困りごとから探す顧客を狙えます。
市場を狭める代わりに、その市場で選ばれる確率を上げる。
これが集中戦略です。
10.ただし「狭すぎる市場」には注意
集中すれば何でも成功するわけではありません。
最低限、次の3点を確認します。
①市場があるか
実際に困っている顧客が十分いるか。
②お金を払う価値があるか
困っていても、有料サービスとして成立しなければ事業になりません。
③自社に強みがあるか
市場が魅力的でも、自社が勝てなければ意味がありません。
つまり、
顧客ニーズ
×
市場規模
×
自社の強み
11.VRIO・SWOT・競争戦略がつながる
ここまでの3回を一本につなげてみましょう。
第1回 VRIO
何で勝てるのか?
↓
第2回 SWOT
市場にどんなチャンスがあるのか?
↓
第3回 競争戦略
誰に、どの価値で勝つのか?
↓
マーケティング
その価値をどう伝え、売るのか?
VRIO
「強み」
+
SWOT
「市場機会」
↓
ターゲットを絞る
↓
差別化
↓
価格以外で選ばれる
↓
売上・利益
すべて売上・利益へつなげて初めて意味があります。
中小企業診断士の視点
私は中小企業の戦略を考えるとき、「何をやるか」と同じくらい「何をやらないか」
が重要だと考えます。も資金も時間も限られています。
10種類の商品を平均的に販売するより、
「この顧客、この商品、この地域では負けない」
という領域を一つ作る。
そこへ人材、広告、Web、教育、設備を集中します。
集中するから経験が蓄積し、経験が蓄積するからVRIOの希少性・模倣困難性がさらに強くなります。
ワンストップ君のワンポイント
🐶 「大きな会社と同じ場所で戦わなくていい。自分が一番になれる場所を探そう!」
自社でできる実践ワーク
次の4つを書いてみてください。
①現在、最も利益率の高い顧客
②最も紹介が多い顧客
③競合より明らかに得意なこと
④今後伸びそうな市場
この4つに共通する部分がないか探します。
そして、「○○で困っている○○なら、当社」という一文を作ってみてください。
これが、集中戦略の第一歩です。
まとめ
中小企業が価格競争から抜け出すために必要なのは、単純な値上げではありません。
自社の強みを知る
↓
市場の変化を見る
↓
顧客を絞る
↓
その顧客にとっての価値を高める
↓
専門性・経験が蓄積
↓
希少性・模倣困難性が高まる
↓
価格以外で選ばれる
↓
利益・事業発展
「特定のお客様に、他社より高い価値を」へ。
これが、中小企業にとって非常に重要な競争戦略です。
次回予告 第4回
小さな会社は「局地戦」で勝つ
~ランチェスター戦略で、地域・商品・顧客を絞り込む~
次回は今回の集中戦略をさらに具体化します。
大企業と真正面から戦わず、
地域を絞る・商品を絞る・顧客を絞る・営業方法を絞る
ことで、小さな会社でも特定市場で優位に立つ方法を取り上げます。
「1位になる市場を自分で作る」という視点から、具体例を中心に説明します。
| 第3回の要点 | 実践ポイント |
|---|---|
| 価格競争 | 値下げは売上以上に利益を圧迫する |
| 差別化 | 商品だけでなく説明・対応・保証・体験まで対象 |
| 集中戦略 | 誰にでも売ろうとせず、得意市場を絞る |
| 市場選択 | 顧客ニーズ×市場規模×自社の強みで判断 |
| VRIOとの関係 | 集中による経験蓄積が希少性・模倣困難性を強くする |
| SWOTとの関係 | 自社の強みを市場機会へ投入する |
| 最終目的 | 「特定市場で選ばれる会社」になり、売上と利益を伸ばす |




