Q1 交通事故について免責分を給与から控除する形を継続してもよいか
問題点:運送業の場合交通事故で本人に過失がある場合は何らかの処遇に反映するところがほとんどです。 ただし、損害賠償額を賃金から相殺することは労働基準法24条上禁止されており、かつ損害賠償の一部を負担させることは可能ですが、損害賠償額の金額を予定すること(免責の金額にする)のも労働基準法16条で禁止されています。 過失により大きな事故や人身事故などをおこした場合は会社が本人に損害賠償を求めることは可能です。 判例では実損害額の2-3割が限度のようです。
解決策:今の支給額を変えずその中で一部無事故手当を作り、本人の過失による場合はその免責金額に達するまで無事故手当を不支給にする案
事故分担金規程を新たに作成し事故の性質、事故費総額 責任度合いにより損害賠償額を決める規程を作成する案
例: 事故費総額*責任割合*20% 同一年度に過失事故を繰り返す場合2回目以降分担割合5%増加
Q2 ドライバーは固定給より歩合給がよりやりがいがあるので100%歩合給にしていてもよいか
- 問題点:運送業の場合、そのドライバーの職務体系により実運賃収入を基準にした歩合によるものと最低賃金をベースにした基本給+歩合給(または距離数に応じた運行手当)にしているケースが多いです。 トラック運転手は走ってなんぼの世界 やればやるだけ給与が出る賃金体系のほうが運転手には向いています。どうしても長時間となりやすいため残業代についてはきちんと対策が必要です。
特に完全歩合給制度にして100%出来高制にすることは労働基準法27条で禁止されています。 ゆえに完全歩合給で支給をしている場合でも最低限保証すべき金額(目安通常の6割)を保証することが必要になります。
また完全歩合でも時間外手当は125%でなく25%割増部分のみ発生します。
2023年4月より60時間超時間外労働の割増賃金率が50%に引き上げとなります。労使協定があれば引き上げ分の25%について代休処理とすることもできます。
・解決策: 完全歩合給で支給をしている場合でも最低限保証すべき金額(目安通常の6割)を保証することが必要になります。
また距離や収入により変化する運行手当については定額運行時間外手当として支給する旨給与規定に規定するかもしくは給与明細で定額運行残業手当とすることが労務トラブル防止に有効です。
完全歩合については保証すべき最低金額6割相当額は妥当な金額ですが、不就労がある場合はその最低金額を日割り欠勤控除または有給扱いとすることができます。 給与規定に以下の文言を追加 不就労の日がある場合は保証給を日割り控除する。
Q3有給休暇·についてよく管理していないがどうするか
- 問題点: 改定により年10日以上の有給休暇を取得する権利のあるものについては、使用者は最低5日間は有給休暇を取らせる義務が法令化されました。
- 解決策: 就業規則第の計画年休に追記し以下の文言を追記する。
有給休暇は年度内に全員最低5日間は消化するようにする。会社は年5日の有給休暇を取らない場合は、計画年休として指定することができる。
ただし、従業員の意見を聴取し、できる限り希望に沿って指定する。 使用者は従業員ごとの有給休暇付与日、取得日数、取得時季などを記載した有給休暇管理簿を作成し3年間保存義務をしなくてはならない。
Q4 運送業特有の服務規程 懲戒事由 解雇事由について 始末書を書いてくれないがどうするか
- 問題点:運送業で特に守ってもらわなければ解雇に該当するようなことを就業規則に規定していない
- 解決策:懲戒や解雇につながる事由や遵守してほしいことに以下の文言を追加
一般的なもの無断欠勤が連続14日に及んだ時→5日以上に及び出勤の催促に応じないまたは連絡が取れない場合
SNSやスマホ等にかかわる行為 運転中にスマホを操作 SNSで社内や荷主に関する不適切な内容の投稿
- 反社会的団体に所属または交流しないこと
- 業務中、業務外を問わず酒気帯び運転、飲酒運転をしないこと
- セクハラ、パワハラ行為を禁じる
- 過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができない状態で自動車事故報告規則(昭和26年運輸省令)第2用に規定する重大事故を起こしたときまた本人の不注意による重大な死傷事故を起こしたとき
指導記録書 運送業は社員が問題を起こした場合でも始末書などを取らず、口頭の注意でだけで済ませているところがほとんどです。 いくら何度も注意したといっても書面で残さない限り、解雇等懲戒を行うことは不可能です。
言った言わないとなるトラブル防止のためにも添付のような指導記録票を記録しリスク管理トラブル予防しましょう。
Q5 労働条件通知書や三六協定 タイムカードなどの労働時間を管理する書類の3年間保存義務を果たさないとどうなるか?
- 問題点:書面で労働条件通知書または雇用契約書を全員に渡しているか
2019年4月より安全衛生法改正により企業規模にかかわらず従業員の健康確保措置の実効性確保のため従業員の労働時間の状況の客観的把握が義務付けられた。 タイムカードやパソコンなどのログイン情報など また3年間の保存義務があり廃棄すると罰せられる。
- 解決策:就業規則に規定していても意外と労働条件通知書または雇用契約書を書面で労働者に渡していないケースが多いものです。こういった些細と思われる労働基準法違反でも監督署では書類送検 新聞などに公開することもあります。またこちらは誓約書については労働基準法上の書面義務はないのですが誓約書も同時に交わすと良いでしょう。
- 労働条件通知書に追加すべきこと
ドライバーの職種転換をできるようにする。 勤務場所: 本社 ただし勤務先の変更もありうる 仕事の内容:運転 荷役度その他の関連業務 ただし職務変更もありうる。 定額残業代がある場合はその旨追記するとよいでしょう。
- 労働時間管理の改正に対応すべきこと
- タイムカード デジタコ連動勤怠ソフトなどで労働時間を把握できるようなシステム(本人申告や事業主記載は原則不可)及び3年間廃棄せず保存することを就業規則に記載します。
- 三六協定で運送業は文言が特殊です。 働き方改革による労働時間規制が2020年4月より改定 特別条項を入れても中小企業は2020年4月より適用(年720時間(休日含まず)2-6か月で平均80時間以内(休日労働含む)月100時間未満(休日含む)としなくてはなりません。(ドライバー以外は適用)
- 運転手の場合は企業規模にかかわらず2024年4月から施行ですが今から整備が望ましいです。
- トラック運転手の時間外休日労働は一日の最大拘束時間(16時間)1か月の拘束時間(原則293時間、労使協定がある場合は1年3516時間を超えない範囲で1年のうち6か月まで320時間)が限度です。 休日労働は2週間に1回が限度です。
・三六協定について 労働基準監督署提出書式が変更されているので注意してください。
Q6 採用時の書類について
- 問題点:ドライバーの採用時に特に気を付けるべきことはないか
- 解決策:運送業の場合
●運転記録証明書を必ず採用時にとれるとよいかと思います。 過去5年間の運転規則事故歴 違反歴
●マイカー勤務の誓約書 任意保険付保の確認
●健康状態自己申告書(添付) 健康状態の確認 てんかんなどのうつ病などの精神疾患、運転に支障をきたす持病など運転に支障のある疾病がないか
虚偽の記載をして事故等おこした場合は懲戒解雇事由とする。
Q7 定年及び再雇用制度について
- 問題点: 定年については、60歳とし、本人の希望する場合は嘱託社員として再雇用するケースが多いです。 定年後再雇用規定においても再雇用についてどのような手続きをするか具体的に指定がないようです。退職金制度がない運送業においては、定年後も正社員同様そのまま雇用されているような状態の運送会社が多いようです。
- 解決策:明確な継続雇用制度規定の策定 フォーム 2013年以降本人が希望すれば65歳まで継続雇用が義務化されたため原則として自動的に65歳まで更新します。 賃金をどの水準にするか 賃金水準を75%以下と下げる場合雇用継続給付金申請をするか 再雇用後の役割 雇用契約を1年ごとに更新する場合5年を超えると2015年4月から無期雇用に転換する制度ができたため、定年後の再雇用で無期雇用に転換しない有期雇用特別措置法の申請書を提出する必要があります。 1年ごとの雇用契約の場合、労働条件通知書に必ず契約期間の更新に対する判断について明示が必要となります。
- 再雇用後の労働条件は再雇用前のものを引き継がない
- 心身の故障のため業務に堪えられない状況の場合、勤務状況が著しく不良で引き続き社員としての職責を果たしえない 解雇 普通退職事由に該当する場合は継続雇用をしない。
- 問題点:法改正によりパワーハラスメント防止条項が義務化された。
- 解決策:1 パワーハラスメント防止条項を追記 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景とした、業務の適正な範囲を超える言動により、他の労働者に精神的·身体的な苦痛を与え、就業環境を害するようなことをしないこと
- 逆に今は簡単にスマホなどでパワハラを録音できる時代です。
- 感情にまかせて怒る。 侮辱する。 人格性格攻撃。 馬鹿野郎 ごくつぶしなどの言葉はタブーです ドライバーは比較的自尊心が強くわがままな人が多いのですが押さえつけるような指導は禁物です。
パワハラにならないために借りてきた猫という言葉があります。
「か」感情的にならない(叱るときは冷静に 昭和の熱血指導は平成のパワハラ 個人的にはきちんと指導してあげないとそれはそれで一番成長できないと思うのですが)
「り」理由を話す (まず褒めてから叱る 人に対してでなく行動に対して叱る その理由 論理的に どんな人にもプライドがある 責め続けず逃げ道も作ってあげて
「て」手短に (長い説教は部下はあまり効果ない場合が多いです。)。
「き」キャラクターはタブー性格人格攻撃しない (年齢、性別、能力、性格 家庭環境 差別 タブー)
「た」他人と比較しない (●●さんと比べては一番腹が立つセリフ
「ね」根に持たない (思い出したようにまだ昔のことを説教のネタにするのはやめて
「こ」個別に叱る (みんなでミスなどを共有することが必要な場合はみんなの前でも良いと思うのですが 労務トラブルがあるというのは1対1が少なすぎるような気がします。)
Q9 安全教育で特に気を付けるポイントについて
長距離ドライバー深夜に及ぶ場合は年2回の健康診断 車両の始業点検励行 勤務中の喫煙を慎むこと
★運送業安全教育
定期的に安全教育を実施 トラック運転手特に大型トラックはマイカーの3倍以上の注意力が必要 運送業平均年齢40台後半 点呼時に体温、血圧、アルコールなどの点検 交差点 漫然と運転する直線道路 駐車場(一番事故が多い) 夕方 夜間 雨 遅刻時間のカバーのためのあおり危険運転の防止 携帯電話ながら運転の防止 ドライブレコーダー デジタコによるスピード違反 車間距離 人身事故の重罰化 人が多い道路は特に注意を要する。人身事故を不注意でおこし立件された場合は懲戒事由とする。
燃費向上を意識する。 ドライバーのマナー教育 服装·車を清潔にする。 言葉使い 挨拶 荷主への礼儀
Q10 運送業会計からみるポイントは
★ 運送業の会計から見る労務費
売上100%に対し
燃料費15-20%(長距離の場合20-24%やや高め) 軽油取引税は必ず分けて区分経理
修繕費 5%
高速代 4%(長距離の場合10-18%)
減価償却費 リース 7%
保険料 6%
労務費45%(社保含む)
一般管理費17%
利益1%
一般的な長距離の労務費率 訪問別運賃収入*30%
運送業の許可を持っている場合運送業の事業報告書を管轄の運輸支局に提出する必要があるため運送原価を作成し、報告書にそった会計処理及び勘定科目を作成する。
運送業は安全輸送の管理より許可業者には様々な書類を一定期間整備しなくてはならず、それを怠ると厳しい行政処分がある。(監査 巡回指導による)
点呼記録簿
運転日報
タコグラフ
運行指示書
これらの原資資料から売上の漏れ 期ずれの把握
外部運転手への支払いは傭車費 トラック持込運転手の中で専属運転手の場合、トラックの賃借料以外は給与となる場合がある。 ガソリン代は軽油取引税を分けて仕入税額控除の対象にしないようにする。
現行の軽油取引税は1Lあたり32.1円
貨物損害賠償保険などの保険金収入の計上時期に注意 未収でも損失のあった時にあげる
未収運賃のもれ 期ずれ注意 締め後も計上する。
車両の減価償却の時期は納車して事業のように供した時から 下取りや車両売却時の消費税の処理注意(売却額が消費税対象)
3.5トン以上の新品トラックは特別償却の対象となる。
リースバックなどをした場合の仕分けも難しいので要注意だ。 購入時は割賦販売かリース契約か契約書で良く確認する。