はじめに
「良い商品なのに売れない」「広告を出しても反応が弱い」
そんなとき、商品そのものではなく、誰に売ろうとしているかが曖昧なことがあります。
例えば、「中小企業の皆さまを支援します」では対象が広すぎます。
一方で、「従業員20人以下の建設会社で、採用と定着に悩んでいる経営者を支援します」
まで絞ると、提供するサービスも広告の言葉も具体的になります。
そこで使うのがSTP分析です。
STPは、
- Segmentation:市場を分ける
- Targeting:狙う顧客を決める
- Positioning:どのように選ばれるかを決める
という3段階で考えます。
1.まず市場を分ける ― Segmentation
市場を一つの大きな塊として考えず、顧客の特徴によって分けます。
例えば工務店なら、
- 新築を検討する人
- 中古住宅を購入した人
- 高齢者がいる家庭
- 光熱費を下げたい家庭
- 相続した空き家を持つ人
では、悩みがまったく違います。
法人向けなら
- 業種
- 従業員数
- 売上規模
- 地域
- 創業年数
- 経営課題
などで分けられます。
市場全体
↓
顧客の特徴で分ける
↓
それぞれの悩みを確認
↓
自社が強い市場を探す
2.「一番売れそうな人」を決める ― Targeting
市場を分けたら、次に
どの顧客に経営資源を集中するかを決めます。
中小企業がすべての顧客を狙うのは現実的ではありません。
ターゲットを選ぶときは、私は次の4点を確認します。
①市場に十分な需要があるか
困っている人が実際にいるか。
②利益が出るか
売上だけでなく、粗利益まで確認します。
③自社の強みが生きるか
前回までのVRIO分析とつながります。
④今後伸びる市場か
人口、法改正、技術、生活様式などの変化を見ます。
3.具体例① 工務店
A工務店には、次の顧客がいました。
- 新築住宅
- 水回り修理
- 外壁塗装
- 高齢者住宅改修
- 窓断熱工事
売上だけ見ると新築が大きい。しかし分析すると高齢者住宅改修と断熱工事は、紹介率と利益率が高いことが分かりました。
さらに地域では高齢化が進んでいます。そこで、「高齢者が安心して暮らすための住宅改修」
を重点ターゲットにします。
すると、
- 手すり
- 段差解消
- 浴室
- 断熱窓
- 補助制度
を一体として提案できます。
「何でもできる工務店」から、選ばれる理由が明確になります。
4.Positioning ― お客様の頭の中で場所を取る
ターゲットを決めたら最後に、その顧客から、どのような会社として覚えてもらうか
を決めます。これがポジショニングです。
例えば美容室なら、
- 安い美容室
- 高級美容室
- 子ども連れ専門
- メンズ専門
- 白髪染め専門
- くせ毛専門
では、同じ美容室でも立ち位置が違います。
ポジショニングの理想
「○○なら、あの会社」と言われる状態です。
これは以前学んだブランド戦略ともつながります。
5.具体例② 製造業
ある金属加工会社が、
「金属加工なら何でも対応」と営業していました。
しかし、それでは大手や低価格企業と比較されます。
過去案件を分析すると、
- 試作品
- 少量
- 短納期
- 難加工
の評価が高かった。
そこでターゲットを、開発段階で少量試作が必要なメーカーに絞ります。
ポジショニングは、「量産前の難しい試作品を短納期で形にする会社」です。
営業資料もホームページも、設備紹介ではなく、
- 過去の試作事例
- 対応できる精度
- 納期
- 技術相談
を中心に変えます。これで営業戦略まで変わります。
6.具体例③ 介護事業所
介護事業所でも、「高齢者ならどなたでも」では特徴がありません。
例えば、
- 認知症ケアの経験が豊富
- 家族相談に強い
- 医療との連携が充実
しているなら、ターゲットを認知症の家族介護に不安を抱える家庭と設定します。
ポジショニングは、「認知症の本人だけでなく、ご家族まで支える介護事業所」です。
すると情報発信も変わります。単なる施設紹介ではなく、
- 認知症との接し方
- 家族の負担軽減
- 受診の目安
- 介護サービスの選び方
などが重要になります。
7.具体例④ 士業・コンサルタント
士業では、特にSTPが重要です。例えば、「会社経営のことなら何でもご相談ください」
では、多くの事務所と同じです。
ターゲットを、「従業員10~50人の建設会社」に設定する。
さらに、
- 税務
- 社会保険
- 建設業許可
- 助成金
- 資金繰り
を組み合わせれば、「建設会社の経営をワンストップで支援する専門家」というポジションができます。
専門分野が明確になるほど、その業界の事例が集まり、さらに専門性が高まります。
ここでもVRIOの希少性・模倣困難性につながります。
8.ターゲットを決めると広告の言葉が変わる
ターゲットが曖昧な広告
経営のお悩みならお気軽にご相談ください。誰にも強く響きません。
ターゲットを絞った広告
採用しても半年以内に辞めてしまう介護事業所へ。
求人票だけでなく、入社後教育・賃金制度・職場環境まで一緒に見直します。
対象者は少なくなります。しかし、該当する経営者には、「まさにうちのことだ」と感じてもらえます。
誰にでも伝える
↓
薄いメッセージ
----------------
顧客を絞る
↓
悩みが具体的になる
↓
強いメッセージになる
9.ターゲットは「理想」ではなくデータから決める
経営者が、「富裕層を狙いたい」と言うだけでは、戦略になりません。
実際の顧客を分析します。おすすめは次の5項目です。
- 売上が大きい顧客
- 利益率が高い顧客
- リピート率が高い顧客
- 紹介が多い顧客
- 自社が良い仕事をできる顧客
特に重要なのが、「利益が出て、喜ばれ、紹介される顧客は誰か」です。
この顧客層こそ、有力なターゲット候補です。
10.ポジショニングマップを作ってみる
競合との違いを見つける方法として、簡単なポジショニングマップも役立ちます。
例えば飲食店なら、
高価格
↑
専門店 高級店
専門性 ←────────→ 総合型
地域専門店 大衆店
↓
低価格
自社と競合を書き込み、競合が少なく、顧客ニーズがある場所はどこかを考えます。
ただし、空いている場所なら何でもよいわけではありません。
そこに顧客がいなければ市場になりません。
11.STPはこれまでの戦略を「顧客」に結び付ける
ここまでの5回を整理すると、
VRIO
何が強みか
↓
SWOT
どこに機会があるか
↓
ポーター
どう差別化するか
↓
ランチェスター
どこに集中するか
↓
STP
誰に売り、どう覚えてもらうか
↓
売上・利益
かなり経営戦略らしくなってきました。
中小企業診断士の視点
ターゲットを決めるとき、「売れそうな人」だけを考えないことが重要です。
私は、自社が一番良い仕事をできる顧客は誰かも必ず考えます。
その顧客なら満足度が高くなり、
良い仕事
↓
顧客満足
↓
口コミ
↓
紹介
↓
同じ顧客が集まる
↓
専門性がさらに高まる
という好循環が生まれるからです。
ターゲティングとは、単に市場を狭めることではありません。
自社と顧客の相性が最も良い場所を選ぶことです。
ワンストップ君のワンポイント
🐶 「誰にでも好かれようとしなくていい。“あなたにお願いしたい”と言ってくれるお客様を決めよう!」
自社でできる実践ワーク
①最も利益率が高い顧客
②最も紹介が多い顧客
③自社の強みを最も評価してくれる顧客
④今後増えそうな顧客
この共通点からターゲットを決めます。
当社のターゲット
「で悩んでいる、」
当社のポジショニング
「____________________なら、当社」
この2つを一文で言える状態を目指します。
まとめ
STP分析で重要なのは、難しい市場分析ではありません。
市場を分ける
↓
勝てる顧客を選ぶ
↓
顧客の悩みを深く知る
↓
自社の強みを合わせる
↓
「○○なら当社」を作る
↓
商品・価格・広告を統一
↓
売上・利益
「何を売るか」の前に「誰に売るか」を決める。
ターゲットが明確になれば、商品開発、ホームページ、営業資料、価格、SNSの内容まで自然に決まってきます。
次回予告 第6回
良い商品でも「売り方」が悪ければ売れない
~4Pと4Cで、商品・価格・販路・伝え方を顧客視点から見直す~
次回は、商品戦略をさらに具体化します。
4P
- Product
- Price
- Place
- Promotion
に加え、顧客側から考える4Cも使い、
良い商品なのになぜ売れないのか
を具体的に分析します。
例えば「値段を下げる」のではなく、価格の見せ方・購入方法・説明方法を変えるだけで売れるケースなども取り上げます。
| 第5回の要点 | 実践ポイント |
|---|---|
| Segmentation | 市場を顧客の特徴や課題で分ける |
| Targeting | 利益・成長性・自社の強みから狙う顧客を決める |
| Positioning | 「○○なら当社」と覚えてもらう |
| データ活用 | 売上だけでなく利益率・紹介率・満足度を見る |
| VRIOとの関係 | 得意顧客への集中で専門性と模倣困難性を強める |
| 最終目的 | 自社と顧客の相性が最も良い市場へ経営資源を集中する |










